時の流れに身を任せ?

キラキラおじさん?!

「おいっ!!マーちゃん!しっかりせんか!」
(おいっ!!マーちゃん!しっかりしろ!!)
必死な形相でマルちゃんが彼の体を揺すっている。

「マーちゃんな死なしたつね?」
(マーちゃん死んだん?)
香ちゃんが泣きそうな声で兄にたずねる。

「バカッ!!あんくらいでなんの死のうか!」
(バカッ!!あれくらいで死ぬもんか!)
香ちゃんの後ろの方で、皆に背を向けて一人号泣しているたかし君。
「ばってん、マルちゃんが秘密基地に連れていっちゃるちゆうけん泳いでいったつにぃ、ぅわ~ん、うわ~ん」
(だって、マルちゃんが秘密基地に連れてってくれるって言ったから泳いだだけなのに~、ぅわ~ん、うわ~ん)
何とかみんなの力で岩場までたどり着いたのだった。
意識を失いグッタリしているマーちゃんだったが、マルちゃんに胸を押されマンガのように口からピューッと水を噴出すと呼吸が戻った。
同時に激しく咳き込み、意識も戻った。
小さな死からの生還に子供達もホッとしたようである。

その後、対岸に来た大人にイカダで迎えに来てもらい、たかし君を乗せ、無事全員、もとの岸辺に戻ることが出来た。

後日、たかし君は約束どおり、マルちゃんの秘密基地に招待された。
もちろんマーちゃんも功労賞のご褒美に一緒に連れられて行った。
矢部川に流れ込む、ある沢伝いに登っていくと、頂上付近の少し開けた場所に一本の大きな木があった。
どうやらその木の股が秘密基地らしかった。
一番頑丈そうな枝の付け根が『マルちゃんの部屋』らしく、他の枝の付け根にもそれぞれ住人が決まってるらしい。
『マルちゃんの部屋』にはクスの実鉄砲や竹とんぼに弓矢まであった。
全部彼が自分で作った物だ。
なかなかの出来栄えに、マーちゃんも『肥後の神』(折りたたみナイフ)を持っていたのでそれらの作り方を教えてもらおうと思ったくらいである。

「アン時、誰がおりば引っ張ってくれた?」
(アン時、誰が僕を引っ張ってくれたん?)
狭い木の股に3人が並んで座っている。

「あ?何の話?」
(は?何の話?)
マルちゃんが怪訝そうな顔をする。

「溺れたとき、誰かが引っ張ってくれらしたろうが。」
(溺れかけた時、誰かが引っ張ってくれたよ。)

「ほんなこつば言うとそげなだんじゃなかった。だーれん助けとらんばい。」
(本当のこと言うとそれどころじゃなかったし。誰も助けてないよ。)
そう言われ、少し肩身が狭いように感じるたかし君。

「ばってん、何んか光っとる手のごたるとのおりば引っ張りあげたつばい。」
(でも、何か光る手みたいなのが僕を引っ張り揚げてくれたよ。)

「あー、そりゃキラキラさんたい!」
(あー、それキラキラさんや!)
たかし君とマルちゃんが同時に声を上げた。

「キラキラさん?」

「うん!キラキラさん!」
少し興奮気味にたかし君が言う。

彼らが言うには、誰かが大きな木から落ちそうになったり、川で溺れそうになると光る腕のような物がすーっと現れ、大事に至らないように救ってくれるらしい。
もちろんはっきり見える訳ではないし、いつでも助けられる訳でもないが、子供達の間では最後の神頼みの一歩前にいる存在として半ば当たり前になっているようだった。

「へー、そりゃあおりは運のよかったばい。」
(へー、じゃあ僕は運が良かったんだ。)

「そげんばい、絶対。」
(そうだよ、絶対。)

ひときわ大きくセミの声が聞こえる、ある夏の午後の風景だった。

歴史は繰り返される?

それから20数年後。

容子夫人ははじめはご機嫌だった。

友人やお世話になった方達に別れを告げ、一抹の寂しさを感じながらも新たなる覚悟を決め、思い出多い東京を離れたのである。
おなかには内田院長との間に育まれた新しい命が宿っていた。

亭主は一足先に新転地での開業の準備をしていた。
容子は妊娠中と言う事もあり、引越しの手伝いは元の職場の仲間達が全部してくれた。
こうして、とうとう引越し当日まで現地を下見することも出来ず、飛行機で福岡空港に付き添いの実母と一緒に降り立つと、義姉が迎えに来てくれていたのだ。

しばらく高速道路を走っていたが、八女インターを降りてすぐのところにあるフランス料理店で義姉が食事をご馳走してくれたのである。
とても美味しい食事だった。
その店は今でもそこにあるらしい。
しかし、この喜びも一時のことであったと後から判ることになる。

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目次

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時の流れに身を任せ?

キラキラさんが通る?

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青年よ大志を抱け!!

ラーメン王子?院長ラーメン事始