アナタのうちだ!歯科医院物語り

コンペイトウ星

やっとの思いで父の赴任先の村に到着したのは、もう辺りが暗くなりかける頃であった。

この頃になると少しは食糧事情にも変化があった。
時代は丁度、高度経済成長期に入り、食の洋風化が始まっていた。
しかしそれは八女市内に居ればこそである。
残念ながらこの深山の田舎に食パンやバターなどが普及するにはもう少し時間が掛かったようだ。
それでも金平糖(こんぺいとう)などのお菓子は何とか手にすることが出来たが、やはり貴重な物だったらしい。

村で明かす初めての夜。
夜中にモヨオシタ少年は縁側を通って家の端っこにある厠(今で言うトイレ)に行った。
縁側は月光に照らされ、人工の明かりが無くとも歩くには十分なほど明るかった。
用を足し終え、厠から出てきた少年はふと、夜空を見上げた。
そこには満天の星が、おもちゃ箱をひっくり返したように煌いていた。
八女の学校の図書室で見つけた、宇宙の絵が描いてある本を思い出したが、比べものにならない。
山奥で街灯もない環境だからこそ、光の干渉が起きることなく、星の輝きは一層際立っていた。
手を伸ばせば今にもそれら一つ一つを摘めそうなほどだった。
実際、雅則少年は無意識に手を伸ばしていた。
そして摘んだつもりでその指先を口に運ぶ仕草をするのだ。
どうやら星を金平糖に見立てたようだ。
「うん、おいしい。」
一人芝居に満足するとまた寝床へ戻っていった。

学校デビュー

今日は、この村の学校に初登校の日である。
朝から母親は何かと気ぜわしく支度を整えている。
「ほら、雅ちゃん、ハンケチとちり紙は持ったねぇ?あっ、そりから・・」
雅則少年は母親にされるがままに服を着せられ、ポッケにはちり紙とハンカチを突っ込まれ、ランドセルは何度も開けては閉められ中身を確認された。
ようやく身支度が整うと和服をキチンと着こなした母親に連れられ、そそくさと仮住まいを出た。

山間の村の学校とは言え、一応は平坦なグラウンドもあった。
校舎は木造2階建てで、冬には隙間風が吹き込む、当時としては一般的なものである。
その校舎も20数年前に老朽化のために取り壊されてしまったが。

母親に手を取られて校庭を横切っていると、校舎の中から一斉に生徒達がこっちを見ている。
雅則少年は恥ずかしさから母親の手を振り解こうとしたが、母親は一層強く握ったので手を離すことが出来なかった。
結局は母親と一緒に腕を大きく振っただけとなり、まるで『なかよしこよし』をしているみたいで返って恥ずかしい思いをして下を向いたまま引っ張られて行くこととなった。
校舎の方からクスクスと笑い声が聞こえた気がするが気のせいだったかもしれない。

担当教師に挨拶を済ませると母親は教室を後にした。
雅則少年は教師に促されて自己紹介をした。

「初めまして、ウチダマサノリです。」
緊張のあまり喉が渇いて上手く発音できずに、自分の名前がまるで別人の名前のように感じられた。
「今度の校長先生の子供やろ?」
教室の後ろの方から元気のよい男の子が大声で話しかける。
「ほら、質問がある人は手を上げなさい。」
先生がこう言うと、堰を切ったようにハイハイハイッと教室中の生徒が手を上げた。
質問のある無しではなく、便乗して挙げてる者が大半の気がするが、とにかく元気な子供達である。
これで何となく気まずかった雅則少年は少し気が楽になったそうである。

その日から、村の年長組のお兄さん達が彼の面倒を見てくれるようになった。
当然彼らの妹や弟たちも雅則少年に近づいてきた。
子供には仲良くなるのに理由は要らないのだ。
こうして無事学校デビューを果たした雅則少年にもあだ名がついた。
『マーちゃん』が彼の新しい名前となった。
家族からは『マシチャン』と呼ばれていたので少しだけ違和感を感じたが、それもこれから始まる冒険の前にはどうでも良いことだった。

時の流れに身を任せ?

時の流れは速いもので、あっという間に夏休みになった。
マーちゃんもこの頃には真っ黒に日焼けした、立派な田舎の少年になっていた。
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目次

アナタのうちだ!歯科医院物語り

妖精の住む村 矢部村の転校生

時の流れに身を任せ?

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歴史は繰り返される?

長男誕生!!

青年よ大志を抱け!!

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