歴史は繰り返される?

ガリ勉、容子の巻き!

歯医者さんと聞いて連想するのは、虫歯にならないように歯ブラシと歯磨き粉で毎日丁寧に歯を磨くように指導されるというくらいのものだった。
それにお年寄りの入れ歯くらいは歯医者の仕事だとは知っていたがホワイトニングにインプラント、クリーニングにブリッジなど聞いたことがあったかもしれないが、それまでの容子にとって記憶に残る事は無かった。
せいぜい差し歯は抜けた歯の変わりに何か差し込むもので、八重歯などの歯並びが悪い人は矯正で治すことくらいまでは想像できたが、実際にはどうするのかなど知る由も無い。

この頃になると土地の方たちとも次第にお付き合いも深まり、となり組との月1回の寄り合いでは、方言の飛び交う中、部屋の片隅で何となくイントネーションを変えようとしている自分を感じながら、それなりに会話にも入れてもらっていた。
さて、常に前向きに何かに取り組んできた今までの人生。

そんな中で、この村のために必死に診療に明け暮れる主人を見ていて、少し羨ましくも感じていた。
村の人たちから頼りにされ、本人も使命感に燃える充実した日々。
とはいえ、歯科衛生士など居ない村、また、町から通ってくれる人など居るはずもない。

『仕方が無い、私が何かしなきゃ!』

一度こうだ!と決めると行動が早いのは子供の時からの性分。
丁度そのころ村からは1時間半は掛かるが久留米で歯科助手の講習会が開催されているのを聞きつけ、診療所の手伝い傍ら、早速申し込み、この日を境に必死に歯科助手としても勉強に取り組むようになっていった。

当然、大学は歯学部でもなければ歯科衛生士でもない彼女は、歯磨き粉の名前くらいはいくつか知ってはいたものの、歯に番号があることから、スケーリングや矯正やブリッジといった数多くの専門用語とそれが指し示す意味を覚えて行かなければならなかった。
それまで当たり前に白い歯は、歯磨きさえすれば維持できると考えていた自分の認識の甘さに痛感する日々。
銀歯一つとっても素材や成型の知識だけでも多岐にわたる。
歯科に使う材料の違いや作り方など、テキストの内容は広範囲に及んでいた。
まして自分も悩みの一つである八重歯についても全く知らないことダラケであった。
それだけにいい加減な知識では患者様に迷惑が掛かると不安ななか毎晩学習が続くのだった。

こうして診療所に通い始めたころから、やっと彼女も村の人たちもしっくりとお互いの存在に馴染みを感じるようになっていった。
『住めば都とはこのことかもね。』と、徐々に村の生活にも不自由を感じなくなっていった。

ここでの容子の歯科助手修行の経験が後にとても重要な意味を持つようになるとはこの時は何も考えていなかった。

青年よ大志を抱け!!

「わっ!柔わぁ~。」
先生と握手して驚く私。

「ははは、私の母はもっと手のひらが柔らかかったんですよ。」
ちょっと嬉しそうな院長。

「生まれつきの体質なんですか?何か特別な訓練をしたとかではなくて?」
あまりにも院長の手のひらがフカフカと柔らかいので、そんな訓練なんかある訳無いと思いつつも、つい聞いてしまった。

「ははは、何もして無いですよ。」

「悔しいけど本当に主人の手のひらは柔らかいんですよ。女の私よりも柔らかいし。」
容子夫人は茶目っ気たっぷりにすねてみせる。
確かにコンナに柔らかい手のひらの人は初めてだった。

子供時代はヤンチャで、野山を駆け回り、木や岩をよじ登っていたはずなのに。
天性の柔らかい手なんだ。

「でも、これって、歯医者さんになるべくしてなったんじゃないですか?」

「特にそれで歯科医師を目指したわけではないんですが、今となってみればこの道で良かったのかも知れないですねぇ。」

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目次

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青年よ大志を抱け!!

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